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パラレルキャリアのすすめ

直接業務に関係するわけではないが、最近つくづく思っていることなので、書かせてもらおうと思う。

パラレルキャリア=同時に複数の仕事をもつ、ということが、段々と世間でも当たり前のようになってきたのは、割と最近のことだと思う。日本は20年にもわたるデフレで、日本人の平均給与もここ30年ほど上がる気配もなく下がっている模様。日本人の平均給与が400万円台というけれど、この金額は僭越ながら1990年代、私の20代の給料で、今はそのころと比べても消費税も保険料も上がっているので、この平均値で暮らせというのはかなり酷なことだと思う。もちろん、平均値で暮らす人が多いのではなく、所得格差が広がっていて、所得何千万から億円の富裕層が平均値を引き上げ、一方所得200万円台の人も多くいるらしいので、ほとんどの人にとっては良いにせよ悪いにせよ、余り響かない数字なのかもしれないけれど。

話がいきなりそれてしまったが、今の世の中、会社からもらえる給料、一つの事業から得られる利益だけでは足りないのであれば、複数の仕事を持った方がいいんじゃないかと思う。前に別のブログで書いたが、私は独り身なので、私以外に稼いでくれる人が世帯にいるわけではない。行政書士という士業だけで生活費を稼ぐためには、同時に別の会社でサラリーマンやアルバイトという別業をせざるを得なかった。一般的にビジネスは3年我慢して頑張ればそれからはちゃんとした利益が得られると言われていて、その間の収入は貯金で賄えというご意見もあるみたいだが、私の場合貯金がなかった。会社をやめて業務委託で仕事を引き受けた先、ミュージシャンのマネージメント会社がとんでもなくて、約束した給料を払ってもらえないという予定外のことが起きた。で、たまたまその未払い事件が起きるちょっと前に取得した行政書士の仕事で当座は食いつないでいくことに決めただけで、行政書士になるために準備していた訳ではないからだ。だから独立した当時は、自分の経験を生かせる仕事=エンタメ業界の宣伝の仕事、を別業としてやったし、面白そうな会社には自分のスキルをアピールしたり、リクルーターに仕事を探してもらったりし、その後派遣勤務をしたり、後にいくつかのIT外資で、サラリーマンをやった。派遣身分で働いた会社はかなりユニークで、社長秘書兼日々の売上げ管理が私の業務だったのだが「社長が必要な時のヘルプと自分の業務をやってくれれば、あとはデスクで行政書士業やってくれて構わない」という恐ろしく理解のある会社(前任者が、与えられた業務だけでは暇すぎて耐えられない、と言って1週間経たずにやめたから)で、業務はさっさと片付け、余った時間に書士業を会社のデスクでやらせてもらっていた。でも申し訳ないので、多分、外資の会社では、ロースクール卒業の修士身分ではオーバークオリファイ(Over Qualified-能力に見合わない仕事をさせること)と言われてやらせてもらえないような業務=ゴミの回収・廃棄やお茶汲みも自主的にやっていた。

その後勤務した外資系やITベンチャーには、副業を禁じたり罰則もないので引き続きパラレル業務。でも、自分で会社の仕事をしている時間帯は絶対書士業はやらないと決めて、朝晩と土日を使って書士業をやっていた。書士業が副業なのではなく主業、サラリーマンが副業という気持ちだったし、二つの仕事を持って気持ちを切り替えながら仕事をする方が飽きなくて良かった。だから、私には未だにワークライフバランス、という言葉が心に響かない。ワーク=その人のライフじゃないのかなと思うので。いろんな会社でいろんな経験をしたことが、今の私には大切な思い出と経験になっているし、人生に無駄な経験なんて何一つないと信じている。

多分、一つのことに集中して空いた時間に家族との時間を持ったり、遊びに没頭したい、という人には向かないかもしれないけど、パラレルキャリアってなかなか良い。そもそもこのコロナ禍で一つの仕事だけで生きていけるような余裕がある人ってかなりの大企業にお勤めの方だけだと思う。昨年からオリンピック景気が一転して経済状況が悪化し、雇用があるだけまし、ボーナスや残業代も減らされ、持ち家を売る人も多いと聞く。また、コロナでリモートワークが推奨されているので、通勤時間や会社がらみの会食がなくなり、使える時間が増えているのではないかと思うのだ。

私自身は今、行政書士業、イギリスの人材紹介会社Strategic Selection International (“SSI”)の支店の日本代表、トーマス・イーズリーというユニークな画家の日本地域のエージェント(これはまだ仕込み中で全く利益上がってないが)の3つの仕事を持ちながら弁護士のライセンス取得のために勉強をしている。SSIはもともと友人から、人材紹介の会社をロンドンに持っているイギリス人の知り合いが日本で人材紹介業をやりたがっているから手伝って、と言われて支店設立や紹介業のライセンス取得を業務として手伝っているうちに、私のような日本人が会社代表にならない限り絶対ライセンスは取れないと判断し、自分から申し出たもの。オフィス設置や事務手続き、財務経理など、他の方達にお世話になりながら業務を回して2年が経った。コロナによって、私が行政書士としてメイン業務にしているインバウンドや入管関係の数字が昨年春から急激に落ち込み、エンタメ関連のレギュラー業務が突然なくなってもなんとかやれているのは、SSIの仕事の報酬で最低限売り上げがゼロにはならないという安心感があるから。ベースゼロ、インセンティブだけで生きているセールスみたいな行政書士業ではあるが、SSIの業務も継続していることにより、今月売り上げゼロという最悪の事態を想像せずに済んでいるのである。

そういえば、私が卒業したカードーゾ・ロースクールの同窓生達は、弁護士なら弁護士事務所とは業務委託契約をして他の会社の法務部でも働いていたり、3つの会社でそれぞれ違う役割で働いていたり、別にみんなで相談して決めた訳でもないのに、類は友を呼ぶが如く、普通にパラレルやマルチで仕事をしている仲間が多い。

私らのような状況が誰にでも当てはまるとは思っていないが、会社に忠誠を尽くして一社に終身雇用、という時代はとうに終わっている。そもそも会社がそれを期待していないかもしれないし、そういう気持ちを平気で裏切ってくれる。会社と対等な関係を保つため、または不安定な自分の事業を確固たるものにするためにも、パラレルやマルチで別のキャリアをもつことがより社会のデフォルトになればもっと楽に生きられるのにな、と思っている。コロナ禍でそういう生き方を社会が認めるようになるのなら、それは今の最悪の自体を逃れ、「禍転じて福となす」だろう。

 

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