企業内法務でフルタイム以外の働き方が、やっと日本でも受け入れられつつあるという話を聞いた。自分自身の経験も踏まえて、この話を書いてみたいと思う。
Fractional GC(=General Councel)とは、直訳すれば「部分的なジェネラル・カウンセル」。一社にフルタイムで常勤するのではなく、複数の企業に対して、自分の時間やコミットメントの”一部を割り当て”て、GC機能を提供する、例えばある企業には週1-2日出社して取締役会や経営会議に参加し、別の企業には月数時間のオンラインミーティングで国際契約とコンプライアンスをサポートする、といったイメージ。
Lawyer on Boardとは、Fractional GCをベースにし、単なる外部顧問ではなく、会社の「ボード」に乗る、つまり内部に入り込んで意思決定に関わることを重視するスタイル。海外ではAxiomなどのALSP(代替法務サービスプロバイダー)が、Fractional GCサービスを次々と立ち上げて、「フルタイムのGCを抱えるほどではないが、経営レベルのリーガルサポートは必要」と言う企業に対して、柔軟な法務リソースを提供しているらしい。
また、「Lawyer on Board」を掲げる日本の法律事務所では、社内常駐やパートタイムのサポート、インハウスアウトソーシングを組み合わせて、企業の内部機能として動ける弁護士サービスを提供しているし、のぞみ総合やTKI法律事務所なども、常駐ではない形、必要な時間だけ専門的なGCサービスを提供する考え方を紹介しているそうだ。
まだマイナーレベルではあるものの、「フルタイムだけがGCではない」と言う考え方が、日本でもようやく認められ始めているらしい。
今まで日本企業の多くは、法務・コンプライアンスを「総務・経理の延長」か、「とにかく法務は正社員でなければならない」と言う考えがメジャーな考え方であった。外資系の企業では、法務トップをGeneral Counselと呼び、経営陣の一員としてビジネスの意思決定に深く関わらせるのが一般的だが、日本企業では、GCやChief Legal Officer(CLO)と言う肩書きは一般的でなく、「フルタイム常勤で、1社に100%コミットする法務責任者=法務部長」と言う前提が強かった。
そして、人材紹介会社から英語が必須の法務業務を紹介されて、パートタイムなら・・というと、「常勤でコミットしてくれないならだめ。他を探す」と言う言葉をこれまで何度も聞いてきた。これ一つの原因として、通常の人材紹介では、紹介した人材の年収の何パーセントがリクルーターの報酬になるため、パートタイムなら就業可能、と言っても、その雇用に対する報酬を考えるとフルタイムを探したほうが早い、だからリクルーターにお願いしても真剣に取り組んでくれない、と言うのもあるだろう。
とは言うものの、今の日本の中規模以上の会社であれば
・海外案件があり、英語での契約書作成や交渉が20-30%の割合で必要
・常に英語を使用する外資系ほどの報酬は出せない
・英語をハンドリングできる日本人弁護士はほんの一握り
と言う現実を目の当たりにしたら、Fractional GCの雇用を考えるほうが絶対的に得であり、楽である。
一般的に、海外案件を任せたくても、日本人で英語の契約書をゼロからドラフトできる弁護士はほとんどいない。英語が話せる、読むことはできるというレベルの人は増えている。また、海外の弁護士資格を持っていれば多分英語も使えるのだろうと普通の人は思うのかもしれないが、実はそうでもない弁護士も多い。
もちろん、小さい頃からバイリンガル、海外帰りの帰国子女と言う人たちもいるので、彼らは例外。そう考えると、インハウスのフルタイムで英語使える人間を雇用するのは相当難しい。
これは私の実感でもあるのだが、同じ会社でフルタイムで法務をやっていると飽きる。それまでは宣伝、アーティストのマネージャーなどをやっていたのだが、ハドソンという今はなき(KONAMIグループが買収)会社に法務として入社したとき、あまりに暇で4日で飽きてしまった。同じような契約書が来て同じような修正を入れる。日々その繰り返し。あまりに暇なので、その後自分から手を挙げて、海外とのライセンス案件、レーベルやプロダクションとの音楽配信の契約書の交渉をやるようになったからいいようなものの、その後の会社でも感じたのは、どうも、私は契約書作成やレビューが人に比べて恐ろしく速いらしく、タスクがすぐに終わるので、時間が余ってしまうこと。
私でなくても法務所属の人は、一日中机に座って契約書や相談が来るのを待っている、急ぎがあれば残業を強いられる程には感謝されない立場だと思っている人は多いはず。だから、あちこちを渡り歩く人も多いんだけど、そうすると転職が多いJob Hopperと言う烙印を押される。割に合わないのである。
このFractional GCという言葉を最近知った時に、9年前に私が考えていたことがやっと認められ始めたかと思った。当時、リーガルリクルーターとして優秀なリクルーターと、同じロースクールを卒業した知り合いの弁護士を巻き込んで、「子育てがあってフルタイムでは働けないけれど、優秀な主婦たち」のためにパートタイムの仕事を企業に紹介する人材サービスをやりたくて、女性起業家向けのコンペに応募したことがある。
結婚や子育てで一度会社をやめて主婦になってしまうと、女性はやり直しが難しい一方、パートタイムで働いている女性たちが、限られた時間で最大限の実力を発揮していたのをみていたからである。結果は残念ながら2次選考で落ちたのだが、原因は多分、そのコンペがビジネスとしての可能性より、「人助け」「国際的」「女性らしい」方が評価が高かったからだと思っている。
あとは、人材紹介って、日本では人で商売するということでリクルーターの地位が高くないので、ビジネス自体が評価されにくかったのかもしれない。話を戻すと、私が考えていた「柔軟な働き方を前提に、優秀な人材を企業に橋渡しをする」という発想が、少し時代の先を行きすぎていたのだろう。
現在私自身は、自分のLA事務所案件ではアメリカ側のDealを日本クライアントの代わりに進め、日本では東京事務所で外国人クライアントの英語案件を受ける、という形で、常に2つの裁判管轄業務を行き来していて、実務の8割以上がインターナショナル案件で、日米双方の感覚を知っているからこそ、「フルタイム1社に固定されないGC」という働き方の方に魅力を感じる。
Fractional GCやLawyer on Boardという考え方は、自分自身のキャリアの延長線上にある自然なモデルだと感じているし、企業にとっても今後有効な採用の仕方だと思っている。日本の企業が、こうした柔軟な法務リソースの使い方に目を向け始めているのだとしたら、とっても良いことだし、私を含む多様な働き方を望む人たちにもありがたいことだと思う。
こうしたFractional GC / Lawyer on Board型の法務サポートにご関心のある企業様は、個別事情をお伺いした上で、どのような関わり方が可能か一緒に検討いたしますので、お問い合わせフォームからご連絡ください。