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石橋法務行政書士事務所
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Garnishment Order (債権差押命令)

  1. Letterを受け取る

9月の末の木曜日に、Citibankからレターが届いた。これまでのCitibankからのレターは、アメリカの営業時間に電話して所定の質問に答えないと口座維持させないとか、Affidavit (誓約書)をレター日付の2週間以内に送らないと口座を閉鎖するとか(届いた時にはいつも2週間近く経っているが、海外だろうが期限はお構いなし)ロクな内容じゃないので、週末になるまで読む気がしなかった。で、週末土曜日に覚悟を決めてレターを開けたところ、Garnishment Orderという内容。要約すると、ニューヨーク州のTax Departmentが2006年に1,023ドルを払いなさいと通知したにも関わらず、払わなかったから延滞金を含めて3,933ドルを要求している。Citibankは、その要求に応えるために、あなたの口座でこの金額を凍結しており、いずれTax Departmentに払うことになる。文句があるならレターの日付から20日以内に連絡せよ、というものであった。Citibankの口座は2001年に開設してからずっとそのままにしているのだが、知りもしない通知から16年経って、延滞金も含めて50万円に膨れ上がって初めて、差し押さえ行為に及んだというわけである。晴天の霹靂とは正にこのこと。唖然茫然。ニューヨークから帰国して20年経って、20年前に起きた何かが原因で突然口座から50万円が消えていくことを知らされたのである。もっというと、債務者たる私が、日本帰国後もずっとNYの口座を維持し続け、その口座に差し押さえられる以上の金額が丁度良く入っていたので、凍結の憂き目にあったわけである。

     2. ハンクに代理を依頼

レターの日付は9月13日、内容を確認したのが届いた日の翌々日の9月30日。クレームを入れられる期限が目前、翌週の10月3日であった。ニューヨーク及び問い合わせ先になっているCitibankのLegal部門があるサウスダコタと東京の時差は14時間。先方の営業時間はこちらの夜中である。一方、これからニューヨークの弁護士に依頼してもまだ向こうは金曜日。ロースクールの同窓その他の知り合いでローファームや企業に勤めている人に弁護を頼んでも私個人の代理ができる可能性は低い。よって、無茶を承知でエンタメロイヤーのハンクに「代理か、誰かこの分野に強い弁護士を紹介してくれないか」と依頼メールした。ハンクは長く日本の顧客と仕事をしていて、20年以上D通の顧問もやっているので、日本人の気質をよく理解しているし、ともかくレスが早い。連絡をしたところ、すぐにOKの返事をもらった。そしてその日中にメールをくれて、NY在住の住まいや勤務先の情報や20年分の全てのパスポートや出入国記録などを準備するよう指示してくれた。New YorkにいたときのTax Return processに問題があるのではないかと察してくれての指示である。Taxが専門でも強いわけでもないのに、さすが有能な弁護士だなあと改めて感心した(感心するのも失礼なくらい有能な人だけど目立つのが嫌いなので、知られてないだけ)。メールを見たのは日曜の朝だったが、これは実家に行って古い資料を調べないと埒があかないと判断し、急遽実家の父に連絡して船橋に向かった。

     3. Citibank, NY Tax Departmentとの交渉

2003年に帰国したときにNYから送った荷物はまだそのままにして実家に置きっぱなしだった。母からは早く片付けろと言われていたけど実家は4LDKで置く場所には困らなかったのでずっとそのまま。そのずぼらな性格が功を奏し、探すと、派遣社員としてKPMG監査法人に勤務していた時の給与明細やアパートの賃貸契約書などがその荷物の中に入っていた。時間がないので実家で荷物を2時間調べた後、じゃあねと言って唖然とする父を尻目に自分のマンションにとんぼ返り。大学卒業してからの住居や勤務先などは、以前米国の弁護士になるために必要とされるCharacter & Fitnessという人物調査の書類記入に必要だったので調査済みで、その記録がとってあった。これらをスキャンしてハンクに送り、彼からCitibankにコンタクトしてもらうことになった。

10日待ってもハンクから何も連絡がなかったのでその後どうかとメッセしたら、風邪を引いてしまって声が出ないからまだコンタクトできてない、とのこと。そう、弁護士はメールや手紙じゃなくて、まずは電話やFace to Faceで相手をかますことが必要だし、彼と論争になった時の勢いがすごいのは覚えているので、確かに声が出ないんじゃ彼の作戦通りに話が進まないよなーと理解。期限のレターから20日は過ぎてしまったので気が気じゃなかったが、焦ってもしょうがない。声が出ない時にはマヌカハニープロポリス入りの飴が効くよ、これなめるようになってから私は声が出ないこと無くなったからお大事にね、とメッセしてもう少し待つことにした。

それから1週間経って、早朝スマホを見たら何回も夜中にハンクからWhatsApp宛にメッセージが入っていて、「Citibankと電話を繋いで3者で話したい」とのこと。えー朝の6時だけど、とは思ったが寝ぼけてるわけにもいかず、先方には「通知ももらってないのに突然口座凍結って、たまたま私の口座に$3,940入ってたからって、16年経っていきなり奪うっておかしくないか?」と言いたいことを言い、Citibankの方は、NY州のTax 部署からそうしろと言われただけだからどうしようもないというような話をされ、その場は終わり。ハンクから後にCitibankから要求された、彼が私の代理であり、彼が代理であるということを証明する文書がきたので、それにサインをしてまた待つことに。こんな時に何だけど、ニューヨークの弁護士に代理してもらってアメリカでのトラブル対応してもらうって、なんかワクワクするなあなんて思っていた。

      4. NY Tax Departmentの結論

それから二ヶ月近く経った12月の半ばに、ハンクから連絡があり電話を折り返したところ、CitibankとNY Tax Departmentをやっとこさ捕まえて話をしたところ、私が2003年に自分でやったTax Returnに処理ミスがあり、$1,000ドルほどの支払いが発生していた。そのことを連絡したが、何もなかったので、口座を凍結し、その後CitibankからDepartementに所定の金額が送られたとのこと。2002年分のTax Returnを自分でやったのは、ちょうどH-1ビザ(就労ビザ)の申請中で、申請中は給与を受け取って良いのかどうかはグレーゾーンであったものの、収入があったのにTax Returnをやってなくて後から課税されるのが嫌だったので、自力でわかる範囲で行ったのだった(多分やらなければ差押の憂き目に遭わなかった可能性が高い)。その後500-1,000ドルくらいの金額が返ってきたので、やってみてよかったと安心していたのだが、多分その戻り金自体が間違って発行されたのか、私の方のミスで申告すべきものがまだあったのか不明。ただ、その頃の私の年収は30,000ドルを下回る金額であり、その年収で追徴課税で1,000ドル取られるというのは、どう考えてもおかしい。また、Tax Returnの後、半年くらいはNYにまだいたにも関わらず、なぜ1,000ドルの追徴の通知をその3年後の2006年に送ることが許されるのかも理解し難い。その上、私が去った後も私のルームメイトは同じアパートに住んでいて、彼女とはその後ずっと友人関係にあるので、通知が来たら気がつくはずであり、通知自体がちゃんと送られたのかも疑わしい。ただ残念ながらTax Returnの詳細は残っていなかったので、文句のつけようもなかった。ハンクにはこれ以上議論してもしょうがないし、Tax 専門のLawyerを頼んでこの差押金額が戻ったとしても、Lawyerへの報酬の方が高くなるからここらへんでやめたがいいよと言われた。

  5. 弁護士の報酬

ハンクから連絡があった後にTax Departementから私宛に直接レターが届いた。ハンクと話した上でDepartmentとして上記の金額から500ドルのペナルティは請求しないことを決め、3,431ドルを税金及び追徴課税として終わりとするという内容であった。ここ20年間で一番為替レートで円が安い時期まで待って3,900ドルを凍結されたのは、意図的なのかハズレくじを引いたのか知らないが、結局もとは1,000ドルだったものが20年経って日本円で50万円弱のお金を取られたことになる。500ドルの返却はハンクが代理交渉してくれたおかげだが、いつ戻ってくるのか不明。ハンクは「代理したのは困っているJunkoを助けたかったから。今回は報酬いらないから、今後仕事を一緒にして戻してくれればいい」と言ってくれた。10万円くらいは払う覚悟だったのだけれど、この申し出はありがたかった。

        6. まとめ

原因が起きてから20年経って突然口座を差押さえに来るとは、税金の未払いは恐ろしい。日本の国税庁よろしく、税金取るためならIRSや州のDepartmentは地球の果てまでも追いかけるんだということがよくわかる。以前確定申告でローンの金額を間違って申告した時も、一番お金がない時に追徴され、待ってもらえないか聞いたら「一ヶ月後でもいいですけど、新たに課税されますよ」と言われて諦めたことがある。今回も、円が20年間で最安値の瞬間に取られたし。

そして持つべきものは弁護士の友人。で、ギブ&テイクは世の常なので、私はこれからプロボノで代理してくれたお礼をハンクにしなければならないのである。

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